<文科省イベントレポート>教育×生成AIの検討状況を活用事例とともに解説

文部科学省の「教育現場での生成AIの活用方法」というイベントにて、元文部科学大臣政務官でAIエンジニアの村井宗明さんが登壇して基調講演し、自ら開発した大学入試用小論文AIの公開を通して参加者と議論を行いました。

本記事では、イベントのレポートと共に、小論文AIの使い方、意義、文科省の検討状況、今後の教育×AIなどについて詳しく紹介いたします。

教育現場におけるAI活用に関する議論の現場に対する解像度を上げる助けとなれば幸いです。

 

第1章 小論文AIの意義と課題

1-1 大学入試と小論文

現状の教育における課題として。少子化による大学の定員割れの深刻化が挙げられます。これにより、英数国理社などの多くの科目での入試で入学する学生よりも、小論文・面接などでの大学入試で入学する学生の数が多くなりつつあります。

このように、大学入試においては小論文が中心に変わった一方で、授業は多科目が中心という状況が続き、大学進学を目指す学生での小論文対策のニーズをどう満たすのかが議論されています。

現在の大学入試における小論文試験は、特定のフォーマットに沿って文字数を正確に埋めることが重視されています。

少子化の影響で多くの大学が定員割れに直面しているため、試験は特定の学生だけを合格させるものではなく、ルールに従って正しく書ける学生を全員合格させる方向に移行しています。

例えば、「4段落で書く」「自分の意見と異なる意見を記述する」「他の意見に反論する」といった複数の基準を満たすことが求められます。AIが生成した多様なテーマに対する模範解答を学び、これらの要件に慣れることによって、学生は基本的に合格に近づけます。

1-2 小論文とAI

そうした課題から、2023AI活用教育賞において、学校の先生が執筆した「小論文作成」に関するAIの論文が優秀賞を取りました。(リンク)

また、元文部科学大臣政務官で、AIエンジニアの村井宗明さんが、小論文の作成に使えるAIツールを開発されました。1月20日の文部科学省の「教育現場での生成AIの活用方法」というイベントで冒頭に講演を行い、その際に無料公開する事で参加者に体験をしてもらい、教育×AIの議論の参考としていました。

教育現場での生成AI導入に関するイベント

画像出典:文部科学省

教育×AIについては、積極論と慎重論の両方が出て、今後のガイドラインが議論されていますが、これらの議論を進めるにはまずは実際に使用してみることが優先されるために、このイベントで公開されました。

第3章で解説する通り、文部科学省の暫定AIガイドラインでは

AIが生成した誤った回答を教育のために使用し、生徒にその特徴や制約を理解させること。

・「たたき台」として、何度も自分で見直し、自分らしさを反映させたより良い文章に磨き上げること。

が教育現場での前提となります。

第2章 小論文AIの使い方

イベントの中で紹介された小論文作成AIの使い方について紹介いたします。

2-1 小論文AIの使用方法

元文部科学大臣政務官・AIエンジニアの村井宗明さんが開発した「小論文専用ChatGPT」は下記の動画のとおりです。

 

下記のAIに小論文のお題を入れてみてください。

小論文AI

小論文AI利用ボタン

2-2 小論文のお題のサンプル

さっそく、入試小論文の頻出問題を考えてみました。参考にして、入力してみてください。

・環境問題と経済成長の間のバランスはどのように取るべきか?

・テクノロジーが人間の仕事を置き換えることによる社会への影響は?

・教育制度はどのように変化すべきか?オンライン学習の役割は?

・国際関係における平和維持のための最良の戦略は何か?

・グローバル化が文化的アイデンティティーに与える影響は?

・遺伝子編集技術の倫理的な問題とその将来の展望は?

・人口増加に伴う食糧危機への解決策は?

・メディアが公共の意見形成に果たす役割とは?

・健康と寿命の延伸に伴う社会への影響とは?

・プライバシーとセキュリティの間のバランスをどのように保つべきか?

2-3 実際の使用例

実際に小論文作成AIを使用したところ以下のようなテンプレート的な入試小論文の回答が出てきました。

小論文AIの使用例

・課題

「環境問題と経済成長の間のバランスはどのように取るべきか?」

・回答

“””第1段落 環境問題と経済成長の間のバランスを巡っては、二つの意見が存在します。一つは、経済成長を重視し、環境問題を後回しにする立場です。この立場では、経済成長によって国民の生活水準が向上し、雇用が増えることで社会全体の福祉が向上すると主張されています。一方で、もう一つの意見は、環境問題を優先し、経済成長を制約する立場です。この立場では、環境問題が深刻化すれば、将来的な経済的なリスクや社会的な不安定が生じると主張されています。私は、この課題については環境問題を優先し、持続可能な経済成長を目指すべきだと考えます。

 

第2段落 環境問題を優先する理由は、地球環境の保全が人類の存続に直結しているからです。地球温暖化や大気汚染などの環境問題が深刻化すれば、人々の健康や自然環境が悪影響を受けます。その結果、経済的な損失や社会的な不安定が生じる可能性があります。また、環境問題への対策は、将来の世代にも責任を持つべきだという視点からも重要です。持続可能な経済成長を実現するためには、環境への配慮が不可欠です。例えば、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上など、環境に優しい技術や政策の推進が求められます。

 

第3段落 一方で、経済成長を重視する立場からは、環境保護には経済的な負担がかかるという意見もあります。特に、発展途上国では経済の発展が優先されることがあり、環境への配慮が後回しにされることがあります。しかし、この意見に対しては、環境問題が深刻化すれば経済的な負担やリスクが増大する可能性があることを指摘することができます。また、環境への投資や技術革新によって、新たな経済成長の機会を創出することも可能です。例えば、環境に優しい産業の育成や環境技術の開発など、環境問題をビジネスのチャンスと捉えることができます。

 

第4段落 結論として、環境問題と経済成長の間のバランスは、環境問題を優先し、持続可能な経済成長を目指すべきだと考えます。地球環境の保全は人類の存続に直結しており、将来的な経済的なリスクや社会的な不安定を回避するためにも環境への配慮が不可欠です。また、環境問題への取り組みは新たな経済成長の機会を生み出す可能性もあります。持続可能な経済成長を実現するためには、環境保護と経済発展の両立を図るべきです。

 

【解説】 この小論文は、環境問題と経済成長の間のバランスを巡る問題について、両立する視点とその理由を論じています。入試においては、環境問題の重要性や持続可能な経済成長の必要性についての理解が求められます。また、環境問題と経済成長の間には相互に影響しあう関係があり、調和を図ることが重要であることも示しています。このような視点と論理的な展開が入試で評価されるポイントとなります。”””

通常のChatGPTと異なる点として、「4段落で書く」「自分の意見と異なる意見を記述する」「他の意見に反論する」といった複数の基準を前提として文章が記載されている点にあります。

大学によっては要求される字数や形式が異なることも予想されるため、GPTsなどを用いてそれぞれの対策する大学に合わせてカスタマイズすることも考えられるでしょう。

GPTsについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。

第3章 小論文AIに関する議論

3-1 教育とAIについての議論

この文部科学省の教育とAIのイベントで基調講演をした村井宗明さんは元文部科学大臣政務官。政界引退後は、ヤフー、LINE、東武トップツアーズのITエンジニアとして、文科省の教育システムや給付金申請システムを作り、教育や文科省との深いつながりがあります。

村井さんが進行を務められた基調講演後のパネルディスカッションにおいては、教育現場における生成型AI技術について、積極論と慎重論の様々な議論がされました。

利用する子どものネットリテラシーに関する慎重な意見なども含めて、その効果的かつ安全な学習環境の創造を目指して、先進的AI技術の教育への応用は大きな論点になりそうです。

3-2 文科省のAIガイドライン

文部科学省の暫定AIガイドラインでは以下のような内容が述べられています。

生成AIの活用例:AIが生成した誤った回答を教育のために使用し、生徒にその特徴や制約を理解させること。

長期休業中の課題:生徒が作成した文章をAIで修正してもらい、それを初稿(「たたき台」)として、何度も見直しを行い、自分らしい良い文章に仕上げる。完成した文章は、ワープロソフトの校正機能を使ってチェックし、提出する。

教職員によるAIの利用規則:教育現場で、教職員が学校の端末を使って生成AIを利用する際、個人用のアカウントを使用することは一部禁止されている。

AI生成物の扱いについての指導:AIによって生成されたものを自分の作品として出すことは不適切であり、また、不正行為でもある。このことを生徒にしっかりと教え、自分自身の成長につながらないことを理解させることが重要である。

河津大誠

全体的にかなり慎重な取り扱いとなっていますね

3-3 教育×AIの今後

パネルディスカッションにおいて、村井氏は能登半島地震で被災地に広がった「能登半島地震 被災者支援AI」などのようなハルシネーションが発生しないAIなどについても解説をしました。

生成API」ではなく「検索API」を使用した場合においては、情報源となる文章に間違いがなければハルシネーションは基本的に発生しません。こうした民間で広がり始めた技術があるため、教育機関ではこちらの正確なものを使うべきではないかと主張しました。

このように、子どもたちが生きていくAI時代においては、AIスキルがそのまま就職やビジネスの競争力に直結するため、積極的に教育や受験での活用方法も教えて体験をさせるべきだという意見も出てくるでしょう。

一方で、教師の中には、未知のAIに対する不安もあり、現時点での文部科学省の慎重な暫定ガイドラインを踏まえると、あくまで、「間違いがあるもの」として教えて、自分の頭で推敲することが、教育現場でのAI活用となっていきます。

特に、AIが生成した文章をそのまま自己の成果物として提出することは禁止されていくという点は間違いないと考えられます。

今後の教育現場におけるAI活用については、積極論と慎重論の双方のオピニオンリーダーたちの議論により、ルールが定められていき、暫定ルールから本格ルールになっていく事でしょう。こちらについて、今後とも議論を注目していきたいです。

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