ChatGPTなどの生成AIの建設業界への導入効果を活用事例を元に検証

現代の建設業界は、効率化、コスト削減、そして安全性の向上を常に求めています。このような背景の中、ChatGPTをはじめとする生成AI技術が注目されています。

建築業界における生成AI活用のイメージ画像

本稿では、この新たな技術が建設業界にもたらす変革について、実際の導入事例を交えながら検証していきます。

 

第1章 ChatGPTの建設業界への導入状況

建設プロジェクトは複雑で多岐にわたるタスクから成り立っており、それぞれが緻密な計画と連携を必要とします。

この章では、生成AIがどのようにして建設プロジェクトの計画、設計、実施の各段階で役立てられているのか、具体的な導入事例を6つ紹介します。

生成AI研修

生成AIプロジェクトの流れに関する画像

研修資料の一部

大手ゼネコンなどでは既にChatGPTの利用が進んでいます。

ただ、現場の問題点として導入されたChatGPTが実際に従業員の間で使用されていないことが挙げられます。

そこで株式会社AITechでは、企業向けにChatGPTなどの生成AIをどのように業務に活用するのかについて、基礎的なリテラシー向上から、社内利用計画の具体的な策定まで一気に支援する生成AI研修を建築企業様向けにも展開しております。

生成AI研修プログラムの中身

短期型と長期型があり、特に長期型では、一般的な知識の向上に留まらず、自社内での最適な活用方法を導き出すことが出来る点が強みです。

⇨生成AI研修について詳しくはこちら

現場管理

米シリコンバレーのスタートアップ「MODE」は、対話型AIを搭載した現場管理プラットフォームサービス「BizStack AI」を開発しました。

このサービスは、現場に設置したカメラやセンサーで温湿度や照度、騒音、設備機器の稼働率といったデータを収集し、AIを活用して必要な情報だけを取り出すようにして、スマートフォンでもみやすいUIとなっています。

BizStack AIの機能説明のための画像

画像出典:BizStack AI

一日の大半を作業場で過ごす現場作業員にとって、必要な情報を場所を問わず手軽にみることができるというこのサービスはとても便利なものとなるでしょう。
⇨詳しくはこちらの記事をご覧ください

設計プロセス

株式会社大林組は、初期設計段階を効率化するため、スケッチや3Dモデルから複数の外観デザインを提案するAIツールを開発しました。

これにより、設計プロセスの迅速化と顧客との意見調整がスムーズに行えます。

例えば以下のように、建物の大まかなアウトラインをスケッチし、データとしてを読み込ませるだけで、それぞれのデータごとに異なる写真型のデザインを瞬時に何個でも生成できます。

AiCorb1
これにより、従来必要とした顧客のデザインに関する要望を聞き取り、デザインイメージを互いにすりあわせるための時間を大幅に削減できます。
また、上記の方法で作成した写真型のデザインを元に、3Dモデルの作成に必要な様々なパラメータを推測し、以下のように新たな3Dモデルの作成も可能です。

そのため、スケッチを元に生成されたデザイン案を入力することで、短時間でボリュームデザインとファサードデザインを兼ね備えた3Dモデルを作成し、顧客に提示することができます。

一方向からの画像だけでは全体像のイメージが湧きにくいため、以下のように立体的な画像を用いることで、効率的に交渉を進めることができるでしょう。

AiCorb2

⇨詳しくはこちらの記事をご覧ください

自社専用チャットボット

鹿島建設は、Microsoft Azure上で利用できるAzure OpenAI Serviceを活用した「Kajima ChatAI」を開発しました。

Kajima ChatAI」はイントラネット内に環境を構築することで、入力した情報が外部に漏洩するリスクが低く、さらに利用時に従業員の認証や利用履歴の記録など、社内独自の機能を付加することで、より安全に利用できる環境になっています。

建設業界ではまだあまり進んでいないAIチャットの利用も、安全を担保できるAzure OpenAIを利用することで進んでいくかもしれません。

⇨公式情報はこちら

リノベーション

ランドスケープや建築などの設計プロセスにおいては、

  1. まず始めに、設計者がクライアントに要件などをインタビューをする
  2. インタビューを踏まえて完成イメージ画像やパースなどを作成する
  3. その後、イメージ画像を提出し、クライアントのフィードバックを受ける
  4. フィードバックを元にさらに修正を重ねる

という流れが一般的です。

しかしコミュニケーションは主に言葉で行われるため、それが可視化されたイメージと異なる場合は手戻りが発生します。

そこで株式会社mignは、画像生成AIを用いることで、リノベーション後のイメージ画像を数秒で作成できるプロダクトを開発しました。

このプロダクトにより、プランナーによるインタビューと画像作成のためのデザイナーの手間を削減することが期待できます。

例えば、以下のような青が基調となるリノベーション前の画像を入力すると、リノベーション後のイメージ画像として赤を基調とした画像が出力されます。

リノベーション前の青を基調とした画像

リノベーション前

リノベーション後の赤を基調とした画像

リノベーション後

建設業特化大規模言語モデル

AKARI Construction LLMのホーム画像

画像出典:AKARI

東京大学発スタートアップ企業である燈は、建設業に特化させたLLM(大規模言語モデル)、「AKARI Construction LLM」を開発しました。

従来のChatGPTなどの汎用LLMは、インターネット上やSNSなどの様々な分野の情報を学習させた汎用型LLMのため、専門性の高い領域では正確な回答が難しく、誤った情報を答えていないかチェックするのが困難でした。

⇨ChatGPTやLLMについてはこちらの記事をご覧ください

しかしこのサービスでは、建築基準法などの関連する法律に関する資料や国の標準仕様書、ユーザー企業の社内独自情報などをAIに学習させることで、建築業界における専門性を必要とする質問にもChatGPTよりもはるかに高い精度で回答できるようにしました。

例えば「床の面積が一番広い部屋の仕上げ材の種類と合計金額はいくら?」という質問を投げると、まず設計図書のデータから床面積を計算や、仕上げ表から資材の種類を検索を行います。

そして仕上げ材として使用した資材の平米単価を読み込ませた原価管理データベースなどを参照し、求めた平米単価を床面積に掛け合わせることで、実際の費用を計算します。

AIは算出した費用総額をもとに、「最も床面積が広い部屋における仕上げ材の種類はカーペットで、合計金額は23万3000円です」というような回答を導きます。

他にも過去の議事録や図面データなどを検索や、仕様書などの文章を自動で生成するなどといったことも可能となっています。

また、データは公開されないため、顧客データやノウハウなどといったデータも有効活用できます。

ChatGPT連携サービス

スパイダープラス株式会社は、建設DXサービス「SPIDERPLUS」を手がけ、建設業界におけるデジタル変革をリードしています。一方、株式会社L is Bは、業界専用のビジネスチャットアプリ「direct」を提供し、コミュニケーションの効率化に貢献しています。この度、これら二社は、AI技術を活用したサービス開発において手を組むことを発表しました。

生成AI関連の取り組みの一環として、SPIDERPLUSに蓄積された現場情報の効率的な活用を目指し、ChatGPTの技術を組み込んだ機能強化が計画されています。

共同開発サービスの詳細

画像出典:Build App news

これにより、現場の状況把握や提案の提示を、directを介して迅速かつ簡潔に行うことが可能になります。本取り組みは、短期的には大きな業績への影響は限定的とされますが、長期的には企業価値の向上に寄与すると期待されています。

具体的な活用事例としては、以下のようなシナリオが検討されています:

  1. 不具合の傾向分析と予防策の提示:SPIDERPLUSのデータを分析し、建設現場での問題点の早期発見と予防策を提案
  2. 工程計画とタスク管理の最適化:現場データを基に、効率的な工程計画とタスクの可視化を実現
  3. コミュニケーション内容のデータマッピング:directでの会話内容をSPIDERPLUSのデータに連携し、直感的な情報共有を可能に

⇨詳しくはこちらの記事をご覧ください

第2章 建設業界における生成AI導入のメリット

業務時間の削減

生成AIを活用することで、スケジューリング、請求、記録保持などの行政作業を自動化し、建設作業員がプロジェクト管理やチームワーク、実際の建築業務に注力できるようになり、日常的で反復的な作業の効率化が図れます。

特に残業時間の削減が必要とされている建築業界において生成AIは大きな助けとなるでしょう。

AIによる業務効率化のイメージ画像

コミュニケーションと協力の促進

プロジェクト関連の情報やコミュニケーションを一元管理することで、情報共有がスムーズになり、プロジェクトの成功率が高まります。

また、チャットボットなどを活用することで、他の人に助言を求めにくい質問に関してもチャットボットに質問することが可能となります。また、年配の方が属人的に持つ技術や知識に関してもチャットボットに学習させることで、若い層への継承の助けとなります。

データ分析能力の活用

建設セクターで扱う膨大なデータを生成AIが分析することで、プロジェクトの期限、予算、計画の精度を高め、適切な意思決定の支援やリスクの低減が期待できます。

特に建築に関わるデータは部品・人員・施工期間・規定など膨大であり、これらを全て有効活用することで費用の概算や工期の予測、人員の配分などをデータを元に自動で行うことも可能でしょう。

データ分析のイメージ画像

安全性の向上

過去のデータから学習し、事故発生の可能性を減少させるための改善策を提案することで、建設現場の安全性を強化することが可能です。

また、AIを搭載したカメラなどによって、自動で安全検知が可能となるなど、安全性の向上と人員削減を両立できる点も魅力です。

コスト管理の最適化

東京大学発スタートアップ企業である燈の例のように、自社情報、特に部品などのコストに関わる情報を読み込ませることで、建設プロジェクトに関連するコストの予測と計画を行い、コストパフォーマンスの向上と予算オーバーのリスク軽減に寄与します。

建設プロジェクト中に発生する可能性のある問題を事前に特定し、迅速に解決することで、プロジェクトの遅延やコスト増を防ぐことが期待できます。

第3章 生成AI導入におけるリスク

エラーの可能性

専門分野である建設業界において、その回答が常に正確であるとは限らないため、AIの出力に対する人間の監視が不可欠です。

ハルシネーション(生成AIの間違い)が起きた場合も想定した社内ガイドラインの制定が重要となります。

最新情報の誤り

例えばChatGPTの知識は2023年12月までのデータに基づいており、2024年のデータに対して回答することはできません。

建設業界のように迅速に進化する分野では、最近のトレンドや技術がAIのレスポンスに反映されない可能性があります。この点は独自情報の追加学習でリアルタイム更新されるデータベースとの連携などで対処しましょう。

正確性への懸念

2022年の1級建築士「学科試験」のGPT-4の正答率は47.3%で、合格基準の72.8%には及びませんでした。
実務での使用にはまだ正確性の観点で懸念が生じています。

様々なLLMと合格基準の比較

画像出典:日経クロステック

ただし、こちらも独自情報の学習などで対応可能です。

第4章 まとめ

株式会社エクサウィザーズが行った調査では、「ChatGPT」などの生成AIの利用状況が日常的に使用している割合について、専門サービス業は22.2%、サービス業は13.6%であるのに対して、建設業は0%という結果でした。

現時点では、やはり専門職である建設業界での利用があまり進んでいない状況ですが、今回紹介した事例のように、幅広い分野で生成AIの活用の余地はありそうです。

他の企業に先んじて生成AIを導入することで競合優位性を確保できるとともに、2024年4月に迫る残業規制対応に対しても有効な対策を講じることが可能なので、ぜひ導入してみましょう!

弊社でも生成AIの導入支援を行っております。詳細はこちらから!

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