目次
行政はAIをどう活用?14万件の生データ分析からわかった事
AI技術の活用が行政にもたらす価値
この記事では、「マサルくん」と言う行政限定の生成AIチャットボットの利用データから、実際にどのような用途で使用されており、どのようなニーズがあるのかを分析していきます。
そもそも行政の業務には非常に文章関連のものが多く、さらにフォーマットが定まっている場合も多いためLLMとの相性が非常に良いです。
単純な作業を効率化することで、市町村の独自性の追求や、新しいプロジェクトの始動などより創造的な業務に時間を割くことができるようになります。
実際に、今回紹介する「マサルくん」以外にも、それぞれの市町村の独自チャットボットも出てきています。
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公務員専用AI「マサルくん」の利用状況
全国の公務員によるAIの活用状況を紐解くために、全国230自治体で使われている公務員AIマサルくんの利用状況を基に、公務員がAIをどのように活用しているかについて、提供元の一般社団法人デジタル田園都市国家構想応援団がレポートを公開し、国や自治体の担当者に提出をしました。
「マサルくん」は、公務員が日々の業務を効率化するために開発されたAIで、通常のChatGPTとは違い、行政文書を学習させているため、公務員に最適化された特殊なAIです。
こちらの内容をもとに行政における生成AIの活用の現状をご紹介します。
利用状況
「マサルくん」は、10月1日から3月23日の間に14万5718回利用され、公務員の間で広く使われています。その利用傾向は非常に興味深いものがあり、平日に集中している一方で、休日や祝日には利用が激減します。
こちらは使用が勤務時に限定されていることを示します。
主な利用目的と業務分野
「マサルくん」の主な利用目的は、提案作成、企画作成、文書作成、挨拶文作成などが挙げられます。
これらは、公務員が日常的に行う業務であり、AIを活用することで業務の迅速化、効率化を図ることができます。
答弁作成のような公務員の独自業務にも活用されています。
また、福祉、教育、自治体管理といった分野での利用が特に多いことが分かっています。
上記のデータは公務員が日常的に従事するデスクワークの比率をそのまま反映していると言えるでしょう。
さらに、この公務員の方が入力したプロンプトをデータ解析すると・・
名詞については、「AI」「最新」「質問」などが上位に来ています。つまり、AI自身にAIの使い方やAIについての質問をしている事が特徴となっています。
さらに、「最新」という文字が入っている事は、通常のChatGPTにはない、公務員専用AIに独自に読み込まれているデータを聞いている事が特徴となります。
また、動詞については、「考える」「くださる」「できる」「書く」などが多くなっています。こちらは、プロンプトへの指示としては、想定の範囲内と思われます。
また、全体的に敬語での入力が多くなっていることから、文章の校正などの元々用意してある文章を入力し指示するケースが多いようです。
公務員専用AI「マサルくん」の詳細
今回ご紹介したレポートは公務員AIマサルくんに関するものです。このように高い頻度で公務員に使われているAIについて、その機能を詳しく紹介していきます。
公務員AIマサルくんは、主に3つのモードを使うことができます。
1,公務員業務モード・・提案書、答弁、挨拶文、メール文
2,交付金申請書モード・・国への交付金申請書
3,一般モード
「公務員業務モード」は、通常のChatGPTに対してRAGを用いて行政文書を読み込ませているものです。これにより、公務員独自の業務にもChatGPTの機能を活用することが容易となります。
「一般モード」は、ノーマルなChatGPTです。
「交付金申請書モード」は交付金の申請に必要な事項を入力すると申請書のフォーマットにあった形で出力してくれるというものです。
自治体職員は、デジタルに関する取り組みをする際に、国にデジタル田園都市国家構想交付金の申請書をだして予算をもらうのが通常ですが、このような申請書作成作業は文字数が多く、項目も多いので工数が大変だと言われいてます。
しかし、このAIはこれまでの優良事例をもとに約4000字の申請書をかいてくれるため、非常に便利になっています。1066本の申請書がこのAIで作成をされたことを明らかにされています。
どの自治体が、マサルくんを用いて申請をしたのかは明らかにされていませんが、開発者である村井さんは
人間が書くよりも圧倒的に採択率が高い。初年度の補助金申請は人間とAIで採択率がかわらないが、2年目以降に採択された優良事例だけを学習していくので、工数が削減できるだけでなく、採択率も高い
と説明をしています。
行政によるAI活用のメリットと障壁
今回ご紹介した公共セクターにおける生成AIの積極的な取り入れは、特に注目すべきトレンドの一つです。
11万回以上という利用回数からも分かる通り、既に公務員の間での業務利用は進みつつあります。とはいえ、AIの利用まだまだ十分に浸透していないのもまた事実です。
なぜ導入が進んでいないのか、そしてAIの利用がどのようなメリットをもたらすのかについて紹介します。
生成AI利用のメリット
①生成AIによる業務効率化は、公務員の業務時間の使い方に影響を与える。
これまで時間と労力を要していた煩雑な作業がAIによって自動化されることで、公務員はより創造的で、戦略的な業務に集中できるようになります。
②生成AIの活用は、市民と公共セクターとの関係性の好転につながる。
生成AIによる迅速な情報提供や対応は、市民の満足度を高めるだけでなく、公共セクターへの信頼を深めることにも繋がります。生成AIは24時間いつでも対応できるため土日や夜間でも相談が可能となるでしょう。
③生成AIの活用による話題性の獲得につながる。
まだまだ生成AIが行政で浸透していない現状において、生成AIの早期活用は話題性の獲得につながります。最新技術の取り入れが早い自治体であるとみなされることでより技術に長けた人材の流入にもつながるでしょう。
生成AI導入の障壁
生成AIが行政においてまだ十分に浸透していない原因はいくつか挙げられます。
①ハルシネーションの存在
LLMなどの生成AIがあたかも本当のことのような嘘をつく現象はハルシネーションと呼ばれています。ハルシネーションを減らすにはチャットボットの回答の自由度(tempreture)を下げる必要があり、回答の精度低下につながる場合があります。
②利用方法が浸透していない
ChatGPTのようなLLMを活用するにはプロンプトが重要と良く言われるように、ある程度LLMを使い慣れていないと日々の業務で適切なタイミングで活用することができず、1.2回使っただけで諦めてしまう場合も多いです。
適切に利用すれば大きな効果を発揮することを周知していく必要もありそうです。
まとめ
行政における生成AIの活用は、業務効率化、市民サービスの向上、話題性の獲得など、多くのメリットをもたらす可能性を秘めています。
公務員専用AI「マサルくん」の利用状況から明らかになったように、提案作成、企画作成、文書作成、挨拶文作成などの日常業務に生成AIが積極的に活用されつつあります。また、交付金申請書の作成にAIを活用することで、工数削減と高い採択率を実現できることも注目すべき点です。
一方で、ハルシネーションの存在や利用方法の浸透不足などの障壁も存在しています。生成AIを適切に活用するためには、これらの課題を克服し、公務員一人一人がAIの可能性を理解し、活用するスキルを身につける必要があります。
行政におけるAI活用はまだ始まったばかりですが、今後さらなる発展が期待されます。生成AIの適切な活用により、行政サービスの質の向上、公務員の働き方改革、そして住民満足度の向上が実現されることを願っています。
各自治体が生成AIの可能性を探り、積極的に取り入れていくことで、より効率的で市民に寄り添った行政サービスが提供できるようになるでしょう。生成AIは、行政のデジタルトランスフォーメーションを加速させる力強いツールとなるに違いありません。
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