全国初!富山県魚津市が「全住民用 音声入力ChatGPT」を導入

第1章 行政のAIの動向 公務員限定か、住民向けか

 

 

 1-1 公務員限定がほとんど

昨年、行政のデジタル変革(行政DX)の中心テーマとして、生成AIに注目が集まりました。この流れの中で、多くの自治体がChatGPTの導入を進めたことが特筆されますが、特に目立ったのは、「公務員限定」で使用される内部専用のChatGPTです。

この分野では、公務員専用のChatGPTマサルくん」が大きなシェアを占め、210の自治体に導入されました。これに加え、他の行政AIを含めると、300以上の自治体が公務員限定の生成AIを活用している状況です。

公務員専用AI勝くんのホーム画面

このように、自治体レベルでの生成AIの普及が進む中、いくつかの課題が浮上しています。中でも「ハルシネーション」、つまり生成AIによる不正確な情報生成が問題とされています。この課題により、多くの自治体は生成AIの利用を「公務員限定」としています。このアプローチは、住民へのサービス拡張を慎重に行うことで、情報の正確性を保つという意図があります。

公務員限定」でもChatGPTのようなAIを利用することで、公務員は迅速で正確な文章生成が可能となり、行政サービスの効率化に大きく貢献しています。しかし、一方で住民への直接的なサービス提供には、前述のハルシネーション問題などの課題が存在するため、現在はその展開を見送っている状況です。

 1-2 住民利用型の限定的な行政AIの事例

現在の行政の生成AIは、「公務員限定」の使用が主流ですが、今後は住民サービスへの応用が期待されています。

そこで、公務員だけでなく住民が利用できる行政ChatGPTの限定的な実践例も出始めているので紹介します。

・岡山県総社市・・・マイナンバーカードへの質問に限定

・山口県美祢市・・・観光客に限定

・大阪府・・・高齢者の孤独防止の雑談に限定

これらは特定のユーザーグループに焦点を当てた事例です。特定分野のデータだけを学習し、住民に特定の内容だけの利用を促す実証実験として進んでいます。

民間と自治体では、進み方に違いがあります。民間企業では、AIによる全対応は多く広がり始めています。これは、民間企業は基本的に先進事例になる事を目指す事を目標にしているためです。一方で、多くの自治体は最初の自治体になるのを避けるので、これまで全住民対応はどの自治体も挑戦をしてきませんでした。

他自治体に事例ができてから追随する事を望みがちなので、今後の広がりに期待したいです。 

第2章 魚津市AI 全住民&音声対応 の先進性

 2-1 全住民対応の富山県魚津市の意義

富山県魚津市は、「24時間いつでも、どこでも魚津市の行政に関する疑問点を解決してくれる。」をコンセプトとして便利なAI(人工知能)を活用した自動応答システム『ミラChat』のトライアルを開始しました。

→魚津市発表の詳細はこちら

富山県魚津市のような全住民を対象にしたAI導入の取り組みは、他の自治体にとってもモデルケースとなり得ます。

魚津市役所が事前に用意した「よくある質問」を約600個、機械学習させて、住民からの問い合わせに答える事を目標にしているそうです。

この取り組みは、

・住民側 365日24時間 役所に問い合わせができる

・行政側 電話の工数が減る

という数年後の自治体の在り方を示しているように見えます。

2-2 音声対応ChatGPT導入の意義

今回、驚きだったのが、全住民向けという目標の拡大だけでなく、魚津市が音声AIも同時に導入したという点です。

お年寄りが、文字入力をすることは容易ではなく、スマホのマイクを使っての音声入力にまで踏み込んだというのは、かなり先進的です。

音声対応型ChatGPTの導入は、特に高齢者や障がいを持つ住民など、テクノロジーへのアクセスが限られる層にも恩恵をもたらす可能性があります。

行政分野では、まだ、山口県美祢市が観光案内にを使ったのみで、音声対応ChatGPTは広がりをもっていませんでした。

富山県魚津市で、先進事例ができたことで、他自治体も来年度予算で音声対応ChatGPTの導入に踏み切る事例が増えそうです。 

第3章 実際に使用してみた感想

 3−1 チャット機能

まずはLLMを用いた問い合わせ対応チャットを利用してみました。

富山県魚津市のチャットボット

ChatGPTでは回答することのできない市町村特有の質問にも回答できていますね。

音声の聞き取り能力についてもかなり高いです。日本語の聞き取り精度は問題ないです。

 あえて言えば、間違いを避けるために「わからない」の回答を多めにしているようです。

ChatGPTは、Temperatureという確率分布に関するパラメータを設定しますが、間違いを減らすために低めに設定していると推測されます。そのため、たまに「わからない」との回答が出ます。慎重に導入を進めている状況が伺えますね。

今後他の自治体に広がる際に、この点の改善が期待されそうです。 

3-2 ゴミ分別

こちらのチャットボットにはゴミ分別についての質問に答える機能が付属しています。

ただし、ゴミ分別機能は生成AIで対応しているわけでないようでした。いわゆる「AIBot」や「ルールベースチャットボット」と呼ばれるような多くの自治体で導入されているのと同じ仕組みです。

ゴミ分別チャットボット

LLMを用いたチャットボットではなく、ルールベース型を用いている理由としては、ゴミ分別というタスクへの最適化が考えられます。

ゴミ分別と生成AI型チャットボットは、相性があまりよくないと知られています。理由は、ゴミについては、「文脈」で質問せずに、ゴミの名前の「単語」で質問されることが多く、回答も1対1で正解が決まっているためです。

実際に、香川県三豊市と東京大学大学院の松尾豊教授の研究室は「ChatGPT」を使ったゴミ出し案内の実証実験を開始し、実証実験でも正答率が94.1%にとどまったことなどから、本格的な導入を断念することを決めています。香川市側の要求は正答率99%であったようです。

間違いを避けるために、魚津市も、ゴミについては、AIの先進性よりも確実性を優先したのではないかと感じました。

このようにタスクによってLLMを活用するのかルールベースを活用するのかを使い分けることで、よりチャットボットの活用の最適化が可能となりますね。

ただ、松尾研も実装できなかったゴミ分別の生成AIボットの導入が、どこの自治体が全国初になるのか、技術進化が楽しみです。

第4章 今後の行政AIの予測

富山県魚津市が全国初の取り組みをして、先進事例を作ったことで更なる導入が進んでいくことでしょう。

国のデジタル田園都市国家構想交付金の募集要項の中に、「AIチャットボット」の文言が明記されているため、来年度の4月以降に、多くの自治体で導入されると予測されます。

これからの時代、行政の問い合わせ窓口のAI化は避けられないと推測されます。そのために、この富山県魚津市の事例を元にして、各社がさらに行政AI、音声AIの精度向上へむけて研究する事になるでしょう。

住民が365日24時間、役所に問い合わせ可能となる未来もそう遠くないかもしれません。

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