この記事では、生成AIが医療業界において現状どのように活用されており、今後どのように変わっていくのかについて、活用事例等を踏まえながら解説していきます。
こちらの記事はみずほ銀行の資料を参考としています。(参考元リンク)
目次
第1章 医療業界のバリューチェーンへの影響
1-1 これまでのAI活用範囲
医療業界におけるAIの活用は、近年、顕著に拡大しています。具体的には以下のような分野で活用されているようです。
・電子カルテ入力時に、入力する文字を予測し候補を提示
・レセプトチェック(請求漏れ・過誤による査定減の防止)
・画像診断補助
・自動問診
診断支援、画像解析、患者管理、薬剤開発など、多岐にわたる分野でAI技術が活用されています。
1-2 生成AIの活用可能性
生成AIは、医療業界においても大きな可能性を秘めています。
生成AIの登場によって上記の活用に加え、以下のような活用が見込まれています。
・医師と患者の会話(音声)に基づくカルテ・要約生成
・患者の言語化が難しい症状を引き出すなど病状を深掘りし、より詳細で精緻な問診を実施
・患者記録などの非構造化データや、遺伝情報、画像等に基づく個別化された診断補助・治療提案
・新薬の分子構造を設計
上記のようにより効率的で精度の高い医療サービスの提供が期待されています。
全体的な流れとして、カルテなどの文章作業の効率化および、医療の個別化が進むと言えるでしょう。
1-3 この章のまとめ
以下の表は、医療業界におけるAIのこれまでの活用範囲と生成AIの活用可能性、そしてそのインパクトをまとめたものです。
領域 | AIの活用例 | 生成AIの可能性 | 期待されるインパクト |
---|---|---|---|
診断支援 | 画像診断、データ分析 | 病理診断の自動生成、個別化診断提案 | 診断の精度向上、迅速化 |
患者管理 | 患者データの分析、リスク予測 | 患者の健康状態のモニタリング、カスタマイズされた治療計画 | 患者ケアの質の向上、個別化医療への寄与 |
薬剤開発 | 新薬候補のスクリーニング | 新薬の分子構造生成、薬剤作用の予測 | 新薬開発の加速、副作用の低減 |
医療文書の管理 | 文書の整理、情報抽出 | 医療文書の自動生成、症例報告の作成支援 | 業務の効率化、ドキュメント管理の改善 |
第2章 医療業界への影響とリスク・チャンス
2-1 チャンス
生成AIは、医療業界に大きな変革をもたらす要素の一つです。
特に、前章で述べた通り、診断の補助や個別化された治療計画の提案、新薬開発の加速などが期待されています。これにより、医療サービスの質の向上や、治療の効率化、コスト削減が見込まれます。
また、生成AIによる大量のデータ解析能力は、未知の病気や薬剤に関する新たな知見をもたらす可能性も秘めています。
他にも、書類作成などの単純業務の効率化が進むことで、医師がより、治療や診察などの重要性の高い業務に集中できるようになることや、新薬の発見や治療方法の開発が加速されることで、難治性疾患の治療への道が開かれことが期待されます。
全体として、産業構造に変化をもたらすものではないが、診断補助等を通じた医療の質向上や均てん化、現場の負担軽減(業務効率化)が進むことを通じ、医療システム全体の効率性が高まるだろうと考えられます。
2-2 リスク
しかし、生成AIの導入にはリスクも伴います。生成AIの精度や倫理的な問題は、人命に関わる医療分野では特に重要となります。
第一に、誤った診断や治療提案のリスクがあります。AIの判断は、トレーニングデータに大きく依存するため、データの偏りや不正確さが誤診の原因となることがあります。
また、機密性の高い医療データの取り扱いに関するプライバシーとセキュリティの問題も重要です。
さらに、AIによる自動化が進むことで、医療従事者のスキルシフトや職業的な脅威を感じる可能性も考慮する必要があります。
2-3 この章のまとめ
以下の表は、生成AIの医療業界への影響と、それに伴うリスクとチャンスをまとめたものです。
項目 | 影響 | リスク | チャンス |
---|---|---|---|
診断の自動化 | 診断の迅速化と精度向上 | 誤診のリスク、データの偏り | 正確で迅速な診断の提供 |
個別化医療 | 治療計画のカスタマイズ | 治療提案の誤り、患者データのプライバシー問題 | 患者一人ひとりに合わせた治療計画 |
新薬開発 | 開発プロセスの加速 | 新薬の副作用や安全性の課題 | 難治性疾患治療の革新 |
労働市場 | 労働の自動化 | 医療従事者の職業的脅威 | 医療従事者の業務負担軽減 |
第3章 医療業界での生成AI活用事例
3-1活用事例① 音声認識によるカルテ作成支援
音声認識によるカルテ記載支援が実用化されています。これにより、医師や医療従事者は診療内容を効率的に電子カルテに記録できるようになり、負担軽減と業務効率化が実現されています。
具体例として、株式会社Pleapによる音声認識によるカルテ作成支援サービス「medimo」が挙げられます。
診療における会話内容からカルテ原稿を自動作成してくれるため、カルテ作成の手間を大幅に削減することが可能となります。
また、生成AIと量子技術を主事業とするスタートアップKandaQuantumも2023年4月、GPT-3.5とGPT-4のAPIを搭載した電子カルテ「CalqKarte」を開発し、実証実験を開始しています。(リンク)
3-2活用事例② ビックデータ処理
NEC、理化学研究所、日本医科大学が連携して、前立腺がんを対象に医療ビッグデータを多角的に解析するマルチモーダルAIを構築しました。
このAIは、複数のデータソースを統合して臨床意思決定を支援し、医療従事者の診断精度と治療計画の質を向上させることを目的としています。
3-3活用事例③ 論文の検索と要約
Microsoftは「BioGPT」という生物医学分野に特化したAIを開発し、医師の診療内容の文字起こしや、必要な論文への迅速なアクセスを可能にしています。
「BioGPT」はMicrosoft Researchが研究向けとして開発したもので、「GPT-2」をベースに「PubMed」上の論文名と抄録を学習済みで、 対話形式で必要な論文に速やかにアクセス可能です。質疑応答のデータセット「PubMedQA」における正答率では、 専門家の78%を上回る81%の高い精度を実現しています。
医療業界では、生成AIを用いたさまざまなソリューションが開発・実装されており、医師の診断支援、業務の効率化、患者対応の質の向上など、多方面での利用が進んでいます。これらの事例は、生成AIが医療業界においていかに革新的な役割を果たしているかを示しています。
第4章 医療業界での変化の方向性
医療業界における生成AIの未来は、以下のような方向性で展開されると予想されます。
データドリブンな診断と治療の進化: 生成AIの発展により、患者データを基にしたより正確で迅速な診断や、個別化された治療計画の提案が可能になるでしょう。これにより、病気の早期発見や効果的な治療法の選択が容易になり、患者の健康結果が向上します。
連続的なヘルスケアの実現: ウェアラブルデバイスやモバイルヘルスアプリのデータを利用した連続的なヘルスモニタリングが一般化するでしょう。生成AIはこれらのデータを分析し、リアルタイムで健康状態を評価し、必要に応じて介入を提案します。
新薬開発の加速: AIが薬剤の設計と評価を支援することで、新薬の発見と開発プロセスが加速されます。これは、特に難治性疾患や希少疾患の治療法開発において重要な意味を持ちます。
医療教育と訓練の変革: AI技術の進化に伴い、医療従事者の教育や訓練方法も変化します。仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を活用したシミュレーションにより、より実践的かつ効果的な医療スキルの習得が可能になるでしょう。
ただし、上記の進展が実現するにはAI開発のための共通基盤の構築が必要です。この基盤は、医療の質の向上や医療従事者の負担軽減に不可欠な要素となります。
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